何年振りになるのだろうか・・・『深大寺の”だるま市”へ行かない?』長女からそんな連絡を受けて、久しぶりに出かけた。
三鷹に住んでいた頃は、毎年毎年通ったものだった。お雛祭りの3月3日・4日この二日間が恒例の<深大寺だるま市>。仕事が無い限り、雨が降っても、風が吹いても・・・子供達を車に乗せて“だるまさん”を買いに行った。何十年もの我が家の、そして子供達が大きくなってからは私の春一番のイベントであった。お世話になった方や、実家の母達にも小さなモノを必ず買って帰った。1年過ごした古いだるまさんの両眼に、その時の願が叶っても、叶わなかったとしても、おかげさまで息災に・・・の感謝の思いで黒く墨を入れ、お炊き上げとして納め、新しく買った“だるまさん”に開眼の為の筆をお坊様に入れて戴く・・・これが大事なお仕事なのだ。“だるまさん”は何時の頃からか、毎年、境内脇にある大きな無患子(ムクロジ)の樹の下に構える出店で買い求めるようになり・・・我が家の子供達が大きくなるにつれ、だんだんお店のご家族達も年を重ねられ、『去年、お爺さんがなくなってねえー』そんな会話をしながらも、毎年お馴染みさんの一人にさせて戴いて来た。
私が鎌倉に移ってから・・ご無沙汰をしてしまった。

 約束をした3月4日は良いお天気になった。彼女と調布駅で待ち合わせをして、バスに揺られて深大寺へ〜初めてのルートである。境内は多くの出店が軒を連ねていた。久しぶりの参道の賑わいにも圧倒された。金魚すくいも、射的も、いつの間にか様変わりしていて・・・戸惑うばかり。
『わぁ〜こんなおままごとセットがあるんだ!』
十分大人になった娘が私の隣で突然そんな声を上げて足を止めた。キキ・ララのシールが付いている、おままごと用の小さな家庭電化製品が並んでいる出店・・・もう、デパートの玩具売り場などではお目にかからない懐かしい品々ばかりである。
<あぁ・・・時間は沢山流れたのね・・・>
思わず私の頭の中で子育て時代の思い出が錯綜した。御参りと決まり事を済ませ、昔よく通ったお蕎麦屋さんでランチタイムとなった。ビール・日本酒・二人で乾杯!(何の乾杯?なのか・・)お蕎麦を戴きながら・・・不思議な時間を感じていた。亡くなった友人に紹介されたお店でもあり、彼女と良く草花の苗を買いながら、ふらりと訪れたものだった。
顔なじみの店員さんに『彼女・・・亡くなったの〜』
そう伝えると、
『まぁ・・・そうだったんですか、知らなくて・・・』
忙しい中でそっと顔を曇らせ・・・食事の終わった頃を見計らい
『コレ、召し上がってくださいな、遅ればせながら、ご供養に・・・』
とデザートに羊羹を出してくださった。思いがけない優しさに、薄い小豆色のほんのり甘い羊羹が私の胸の奥でゆるりと溶けた。
キット彼女もこんなのが好き! 娘と二人で戴きながら、ゆっくりと・ゆっくりと春の始まりの時間が過ぎてゆく・・・。
帰りは植木市を覗きながら、調布までの道をおしゃべりしながら気がついたら、歩いてしまった。駅前のパルコでお茶をして・・・昔とは違う、其々の家へ戻って行く現実を、ふと妙にも感じた。 遠い昔、こんな日が来る事など二人とも夢にも思わなかったのだから。母娘の新たな繋がり方が今始まろうとしているのかもしれない・・・そんなことを思った。その答えを出してくれるのは“だるまさん”なのだろうか。来年、両眼に真っ黒な墨を入れられるよう・・・沢山の願を持とうと思った春の一日であった。

2006年3月9日 Terumi Niki

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