夕方髪を洗い、ドライヤーで乾かしていたら・・・疲れてしまった。いつの間にか・・・背中まで伸びてしまった私の髪。
熱風から逃れたくて・・外へ飛び出す。丁度出し忘れていたハガキを3枚手にしてポストまでお散歩。
太陽が沈みかけ、昼間の暑さが嘘のようだ。湿り気を残したままの私の髪に風が心地よい・・その風に乗って微かに波の音が聞こえて来る。今日辺り、もう下の浜は夏を求めにやって来た人々で賑わいだしているのだろう。少しだけ高台に位置するこの住宅街には、そんなことすら想像もつかない静けさが漂っている。
今夜はどんなメニューなのだろうか? ・・・早くも美味しそうな香りが、どこかのお宅のキッチンから・・
今日の復習? その香りの合間から、縦笛の可愛い音色も・・・
私の大好きな“ヤマオロシ”?の花が白と紫の彩で素敵なアーチを作っている。

時間が止まったように、夕方の束の間の・・穏やかな瞬間。

3度目の夏を此処、潮の香りのする、静かな地で過ごしている私・・・
『なんで、こんな所に私は居るのだろう? ・・・なんて穏やかで、平和なんだろう?』
私の心の内は決して穏やかではなく、決して平和でもなく、常にサワサワと不安材料がうごめいているというのに・・・
健康のこと、仕事のこと、生活のこと、・・・etc.これからどんな事と出会って、何を考えて、私は・・・どんな風に歳を取っていくのだろう?・・何処で?

目の前に存在している、あまりにも“優しい情景”と出くわしてしまった私は・・・自分の身の置き所に困っていた。

誰を信じていいのか分からなくなってしまった世の中・・・日本中がどんどんそんな色に塗りつぶされていくようで・・私もいつの間にかその空気に翻弄されている・・・惑わされている。私だけでなく、日本中の人々がそうなのかもしれない・・・悲しい事だ。

7月9日は伊豆・長泉町にあるクレマチスの丘へ久しぶりに赴いた「井上靖文学館」主催の私の“リーディングライヴ”であった。
井上靖氏をこよなく愛する60数名の方々が文学館近くの“知求塾”に集ってくださり、私のリーディングに心を傾けてくださった。
“胡姫”と言う井上氏の全集の中の短編を読ませていただいた。
井上靖氏の作品に出会って2年・・・新しい作品を詠ませて頂く時、いつも傍らに氏が居てくださるようで・・不思議な空気が会場に流れる。
来年の生誕100周年記念に向けて・・さまざまなイベントに参加しながら、井上作品の“品格”を少しでも伝えることができれば・・と新たな思いを胸に抱いた一日であった。

今日は朝から豪雨・・・雨合羽を着て、老犬の排泄を済ませ・・ほっと一息。
ベランダから眺める雨は、まるで天から降りてきた緞帳のよう・・・透明な“水の緞帳”。
これから・・・どんな芝居が始まろうとするのか? あるいは・・今どんな芝居が終わろうとしているのか・・・・?
真夏の太陽が現れだす頃・・・・次の出し物に私はどんな役で登場するのだろう?
心を無にして、ただただ流れ落ちる天空からのメッセージを眺めている。
明日を迎える為に・・・。

2006年7月20日 Terumi Niki

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