『♪ちゃんと あなたに伝わっているかな?
    ねぇ あなたとだから ここまで来れたの
    ねぇ あなたとだから 未来を思えたの
    どんな明日が 待っているかは誰にも
    分からない毎日を〜』

老犬ムッシュ氏の常備薬を、獣医さんまで取りに行った帰り道、私の小さなルノーのカーラジオから吉田美和さんの<未来予想図>が流れてきた。最近良く耳にしていた。風の冷たくなった鎌倉山を一気に走り降り、それまで締め切っていた窓を開けると、耳に飛び込んで来たのはけたたましい虫の音・・・映画は観ていないからストーリーは知らないのだが、彼女の思いもかけない最近の近況とちょっぴり切ない歌詞に翻弄され人肌が恋しくなる季節の中に・・・はまり込んだ。

     『♪あたり前のようにそばにいて
     いろんな‘今日’を過ごしてきたのだから〜』

私も、何人かの人を好きになって、大人になって来た。
ふと、初恋だった奴が、最近逝ってしまった事を思い出した。

仕事で忙しい毎日を送っていた小学生高学年の頃、人並みに私にも初恋の男の子がいた。野球が得意で、休み時間は勿論、放課後、暗くなるまで校庭で夢中になってボールを追いかけていた。登校できる日は、なんとなく・・・を装いながら、夢中で彼の姿を追いかけたものだった。冬になると彼は良く茶色のVネックのセーターを着ていた。私も真似をして同じようなセーターを母にねだった記憶がある。まだまだ貧しかった時代だったから、子供たちはみんな粗末なモノを着ていた。しかし或る時、彼は小奇麗なそのセーターを着てきた。印象的だった。♪ちゃんとあなたに伝わっていたのだろうか〜(笑)。
その後、中学、高校と別々になり私もTV、映画に忙しい日々を過ごしていた。20歳の時某TV局の『初恋談義』という番組に出演依頼が来た。思い切って彼の消息を探して貰った。半分諦めていたが、照れくさそうに、戸惑ったように、彼はスタジオに赴いてくれた。ロクロク何を話したのかも分からぬまま・・・私はお礼を告げて別れた。
それから30数年後、小学校のクラス会が開かれた。久しぶりに(初めて?)私は参加した。彼はすっかり幸せそうなオジサンになっていた。其々にアチコチのテーブルで話をする中、オジサンの彼と話をする事が出来た。
「二木が<結婚する>とかのニュースを週刊誌で見たんだ。会社の営業で行かされた、寂しい地方の食堂だったかな・・・その時俺、まだ一人だったから、ものすごい複雑な気持ちだったの覚えてる(笑)」
「アンタ、遅いよ! 全くぅ・・・『初恋談義』覚えてる!?」
お互いゲラゲラと笑いあった。友人の話では彼はお見合いをして、姉さん女房を貰い女の子を儲け幸せそのものだったと聞いた。<・・・・そうか、良かったじゃない!>
また、クラス会の時は時間作って行くからさ、わいわいやろう!・・・・そう思っていた矢先だった。

<君! 人生、先に卒業してしまったの?>
不思議なショックがあった。
遠い、セピア色の思い出・・・この子が何時かオジサンになるなんて、考えもしなかった頃・・・
でも君は、幸せなオジサンになっていたね! 正直、それも不思議だった・・・私の記憶の中の君は茶色のVネックのセーターを着た真っ黒な男の子。

『♪あたり前のようにそばにいて、いろんな‘今日’を過ごしてきたのだから〜』

出会ってしまったら.・・・・いつか別れが来る・・・分かっていても誰だってそんな現実を認めたくない。
流れ行く川の途中で、出会った人と、どれだけ楽しく、どれだけ長く立ち話が出来るのか・・・・・そんな風に考えれば辛くはないのだろうか・・其処まで悟れない。幸いにもまだ生かされているのなら、大好きな人との大切な時間を悔いのないように!ほんの一瞬であってもその時間をめいっぱい生きたい!
・・・そんな風に生きられたら・・・と私の中の<未来予想図>を描いていた秋の入り口。

2007年10月19日 Terumi Niki

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