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日差しが強くても、空気は少しずつ秋に傾きかけているのだろうか……。

三日坊主から1ヶ月坊主に昇格している毎朝のミニ散歩を続けていると、自然の小さな変化にも体が反応する事が分かる。9月になった途端、道を行き交う人々が急に増えた感じがしたのは、近くにある母校の学生たちだ。
鞄やサブバックを抱えて『さぁ、新学期!』張り切っている様子が伺える。校庭沿いのフェンスからは軽やかなボールの弾む音。テニスの朝練だろう。思わず学生時代にタイムスリップしたようで……懐かしさが蘇った。テクテク歩いていくと、前からやって来たのは飛び跳ねんばかりのわん子と眠そうな飼い主のペアー。
「触らせて頂いても大丈夫ですか?」
私の声にやっと目が覚めたように
「あぁ、……どうぞ、有難うゴザイマス」
目線を同じにして顎や耳、頭をクリクリ撫で回すと、犬は気持ちよさそうに体まで摺り寄せてくれた。春にムッシュを逝かせてから5ヶ月……。もう大丈夫!と自分に言い聞かせていたつもりだが、毛並の感触に出会ってしまうと堪えていた心の寂しさが吹き出して来る。犬とすれ違う度に、『無視、無視』と言い聞かせるのだが、3回に1度は挫折する。

9月2日は、13年前に他界したシーズ犬の命日だった。花と小さな位牌を抱えて、彼の眠るお寺さんへ赴いた。去年はムッシュの介護で13回忌の供養もそっちのけにしてしまった。『ユルセ……』。生後3ヶ月でやってきた彼はぬいぐるみの中へ紛れ込んだら分からなくなるほど小さかった。長女の幼稚園入学記念に頂いたパンジーの花に顔の模様が似ていたので、『パンジー』と名づけた。フワフワのやわらかい毛並みの、なかなかのイケメンだった。やがて長男も生まれて私は3人の母親になったようだった。しょっちゅう犬の名前と長男の名前を取り違えるほど慌しい毎日だった。子供たちが「ママ」と叫ぶと彼は真っ先に私目がけて飛んで来た。仕事と家庭の狭間で疲れ果てていた私にとって、彼は大切なオアシスになっていった。あまり大きな病気もせず、老犬になってからはキッチンで、トイレの前で、お風呂場で、私の傍を離れなかった。そして16年半の天寿を全うした。

9月に入ってもまだまだ暑かった13年前のあの日……。
僧侶の読経を聞きながら、その時に戻っていた。

帰り道、芙蓉の白い花が、行く夏を惜しむように凛と咲いているのが目に映り、来年の春には、ムッシュもお寺さんへ返さなくては……と、二匹の彼氏を逝かせた私は……まだまだ暑い秋の入り口に佇んでいた。


2008年9月4日 Terumi Niki
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